【要約・考察】『意識と自己』(講談社学術文庫/アントニオ・ダマシオ)

『意識と自己』(講談社学術文庫/アントニオ・ダマシオ)

脳神経学者アントニオ・ダマシオの言葉

人々が抱いている世界観を一新する本が存在する。例えば進化生物学者リチャード・ドーキンス『利己的な遺伝子』やマーヴィン・ミンスキー『心の社会』などがそうだろう。そしてこれから紹介するアントニオ・ダマシオ『意識と自己』もそのようなうちの一冊に並べられるべきだと私は思う。

ところで私たちは「感情」や「意識」と言ったものについて、どのようなイメージを抱いているだろう。それらが何のために存在するかは考えず、「人間らしさ」のよりどころとして神秘の神棚に祭り上げるはずだ。ただそういったものが「在る」、それこそが「人間らしさ」なのだ。しかしダマシオは言う。「意識は、一個の特定有機体の生存のために表象の効率的操作を最大にする装置である」と。そして感情も「統合的生存にとってきわめて価値のあることだ」と喝破する。「意識」も「感情」もただ「生存」という目的ために生み出されたとダマシオは主張するのである。「意識的な装置が扱うのは、有機体の基本的なデザインにおいては予想されなかったさまざまな環境的難問に対して、個々の有機体がどう対処すれば生存のために基本的条件をそのまま満たしていけるのかという問題だ

「意識」も「感情」もただ「生存」の必要だった。この結論に人はどう思うだろう。人間らしさなどというものは無いのか、と考えてしまうだろうか。しかしこの本はこのような疑問に「そうではない」と語っているのだと私は思う。それが何なのかはぜひ、知的興奮に満ちた本書を読んで確かめてほしい。