【考察】小説『ハーモニー』著:伊藤 計劃
今の世の中に違和感を覚えている人、そしてSFというジャンルの凄みを味わいたい人に強く勧めたいです。本作の舞台は21世紀後半の世界。そこは医療の発達により病気だけではなく恐怖や不安が排除された社会でした。しかしその中で起きた全人類を巻き込んだ大混乱のなかで、主人公はかつて死んだはずの友人の面影を追うことになります。
「永遠と人々が思っているものに、不意打ちを与えたい」というのはその友人の言葉なのです。これは「死」の恐怖だけではなく「タバコ」や「酒」や猥雑なものも、いうなれば「人を不快にさせる要素」がなくなった世界、「健康」のためにすべてが管理される社会への反逆の言葉です。ところで、本作の設定、どことなく現代社会が似つつあると思えるのは私だけでしょうか。
だからこそ「今の世の中ってなんかおかしいよな」と感じている人には読んでほしい。本作は、このような設定とストーリーを通して「究極の幸福とは何か」と読者に問うてくるのです。読んで、考えてみてほしいのです。確かに健康なことやストレスのないことは不幸ではないと思います。けれどその状態が本当の幸福なのだと本作の読後にも言えるのでしょうか。
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