【名言・考察】宮沢賢治『永訣の朝』の一文

【名言・考察】宮沢賢治『永訣の朝』の一文

宮沢賢治の名前を知らない人はいないだろう。大正から昭和の初めに活躍した童話作家で、その作品は国語の教科書にも載っている。とりわけ「雨ニモマケズ」は誰もが一度は目にしたことがあると思う。一方賢治は作家以外にも「世直し」に奔走し貧しい農民の手助けもしていた。だがこのような取り組みは、彼の最愛の妹・トシの死後のことだ。「ありがとう、私のけなげな妹よ 私も真っすぐに進んでいくから」という言葉は賢治の決意の証といえる。

聖人君主のように語られる賢治でも彼の人生は苦悩の連続だった。特に家業である質屋に対して複雑な思いを抱いていたようだ。有名なエピソードとして、生活費のため大事なものを質に入れようとした人に同情し、金銭を渡してしまったというものがある。賢治のなかには「世の中は不公平だ」という思いがあった一方、自身の学業や健康面を支えてくれた両親からの愛情には自覚的であったりもした。この嫌悪と愛情の両方が賢治の人生に苦悩をもたらしていた。

そして、そんな賢治のそばをついてきていたのが妹のトシだ。妹の死を前にして彼は質屋という商売のグロテスクさも、両親からの愛もすべて受け入れ、自身のすべてを賭けて、世の中を良くするための実践を決意する。紹介したのはそんな一文である。