【あらすじ・感想】『あすは起業日!』起業への熱き疾走!傑作ビジネス小説!

【【あらすじ・感想】『あすは起業日!』起業への熱き疾走!傑作ビジネス小説!

とても面白かった。一冊の本を読み終わって純粋にそう思ったのは久しぶりだ。『あすは起業日!』は著者・森本萌乃の実体験をベースにしている「起業」小説である。そんな本書のあらすじは次のとおりだ。主人公の加藤スミレは、ある日突然会社をクビになってしまう。特別なスキルも、仕事への情熱もなかった彼女は次の就職先について悩むが、あることをきっかけに、副業で行っていた選書サービス事業に本気で向き合いたいと思う自分に気づく。理想のサービスは思いつくものの、スミレ自身は経営について素人だ。そんなお金や人脈もない彼女に、様々な困難が容赦なく襲い掛かる。事業計画、資金調達、エンジニア探し等々。はたしてスミレは自分の熱い想いを実現させることができるのか?というのが本書の概略だ。本論では純粋な「面白さ」を覚えた『あすは起業日!』の魅力をお伝えしたいと思う。

求人倍率が低迷していた時期に就職活動を始め、辛酸をなめてきた人間の一人として「起業」という言葉には苦手意識がある。いわゆる「意識高い系」と言われていた人たちのイメージと直結してしまうからだ。そんな偏見をもっていたため、本書の内容に対して、主人公かその周辺の人物には、人を食ったような口調の嫌な奴か皮肉屋の登場を予想していた。しかし、この予想は外れるどころか、私の偏見は冒頭で崩れることになる。起業を目指す前、主人公の独白にこんな一文があるのだ。「二十代最後の夏、響きこそ爽やかだが、適当な飲み会と無理して積み込む旅行とで、今年も過ぎ去ってしまうのだろうか」。「起業」できるようなポテンシャルを有している人間は、「飲み会」も「旅行」も有意味だと考え、合理的な考えのもとに行うものだと思っていた。けれど実際は違うようだ。どうやら「無理して」いるらしい。その背景にあるのは「今のままでは良くない」という強迫観念と、「何者にもなれない」と予測されてしまう現実からの逃避。なんだ、と思った。私のような人間と同じではないか、と。そんな彼女が自身の事業に本気で取り組もうとする。原動力は自分のサービスの展開に「ワクワクする」という純粋な理由。「スミレは自分が興奮していることに気が付いた。お遊びとはいえ、「仕事」でこんなにわくわくするのは久しぶり、いや、初めてかもしれない」。もちろん、このまま順調にいくわけではないのだが、少なくとも「好きなことがある」だけの等身大の人間であり、ひたむきな人柄だということがお分かりいただけたと思う。「起業家」というのは、特別な才覚がある人を指すのではなく、子どものような純粋さを持ち続ける人のことを指すのかもしれない。そんな「起業家」である主人公の行動に読者は皆、目が離せなくなるだろう。

自分の理想が現実になっていく瞬間は嬉しい。完璧ではなく、第一歩でも飛び跳ねるほど嬉しい。そんな喜びの瞬間の生々しさが本書にはこもっている。詳細は割愛するが、こんな描写があるのだ。「オフィスもなく、自分の所属もよく分からず、この半年間自称社長無職状態だった自分を、ようやく認めてもらえた瞬間だった。(…)小さく掲げた自分の印」。おこがましいことかもしれないが、この描写で私はこのサイトを立ち上げた時のことを思い出した。主人公と私とでは、直面した困難さに天と地ほどの差はあるが、彼女の喜びにはとても共感ができる。自分の理想の一部が「現実」になった瞬間。苦労が報われたような充実感と冷めない興奮。このことについて本論では「共感できる」としか言えないが『あすは起業日!』のこれからの読者には、ぜひ主人公をつうじて追体験してほしい。繰り返すが、主人公は特別な人間ではない。「日々目減りする預金残高と、サービスを成功させなくてはという得体の知れない強迫観念」を抱えながらも「今はこの事業でビジネスがしたいと毎日願い戦っている」。人並み外れた精神力や、武器があるわけではない。誤解を恐れずにいえば、そんな「ふつう」の姿に勇気と元気がもらえるエネルギッシュな一冊が『あすは起業日!』である