【あらすじと感想】『#真相をお話しします』(結城 真一郎)読みやすさと驚きを両立させた傑作ミステリー短編集
謎の館、脱出できない孤島など、周到な伏線や緻密なロジックを積み上げるクラシックなミステリーも面白いけれど、時代を反映させ、問題提起をなすミステリーも同様に強烈に人を惹きつける。本文では結城慎一郎の短編集『#真相をお話しします』を後者と位置づけ、いくつかをピックアップし、その魅力を紹介していきたい。
映画化もされるこの本は、そういった時事的なギミックを好む人や、良質なミステリーをお得に味わいたい人にオススメできることは、急いで付け加えておきたい。
オススメしたい二篇のあらすじ
本屋で『#真相をお話しします』を手に取る機会があれば最初の物語「惨者面談」だけでも読んでほしい。主人公は家庭教師の営業のアルバイトをする大学生。彼はいつものように指定された家庭に自社のサービスの説明をしに行く。しかし彼を迎えてくれた主婦と思わしき人物は、アポイントを覚えておらず、トイレを貸してほしいという申し出も断るなど、不審な点が多くあり…。
さて、この最初の短編で心を掴まれたのであれば、もう大丈夫。是非とも最後の短編『拡散希望』を楽しみにして読み進めてほしい。
この短編の主人公はある島に住んでいる小学生の男の子だ。友人たちと平穏に暮らしていた彼だが、友人の一人から「ユーチューバーになろう」という提案をされたあと、日常が徐々に狂っていく。そして同級生・凛子の死が全てを決定的に変えてしまう。
このあらすじだけを読むとおよそ短編小説とは思えないほどの壮大さがあり「これにきちんとオチがつくのか」と不安になるかもしれないが、安心してほしい。タイトルに込められた意味も含め、傑作短編集のラストにふさわしい上質なミステリーとなっている。
語りたい魅力とミステリー史を少々
察しの良い読者は気づいているかもしれない。この2つの短編の中心となっているのは「受験戦争(中学受験)」と「ユーチューバー」であり、多くの人の関心を集める分野だ。この短編も同様だ。「リモート飲み会」「マッチングアプリ」など、この数年で一気に普及した営みやサービスなどが盛り込まれている。これらをうまく駆使し「なるほど!」と言いたくなる仕掛けが施されているのは、読者への快感を提供すると同時に問題提起にもなっている。
純文学はもちろんのことSFも社会に対する問題提起の役割を担うことがある。ミステリーで言えばジャンル的には「社会派」と呼ばれる分野が該当するだろう。また、そうでなくても八十年代やゼロ年代のミステリーにも「二重人格」や(ゲーム全盛期の影響を受けた)「仮想現実」などの影響も見られる。
しかしミステリーの読者も一枚岩ではない。ミステリー好きといっても誰もがヴァン・ダインを読んでいるわけではない。知る人ぞ知るミステリー作家の清涼院流水の作品が皆に絶賛されているわけではない。そのような意味で、現代という時代を反映し、華麗な伏線を仕掛ける本作は多くの人にオススメできる一冊だ。「ギミックが好き」であれば「社会派」へ、「謎解きの仕掛けが好き」であれば「新本格」と呼ばれる作品群に手を伸ばしてほしいと思う。読みやすくて、面白い。小説として最も重要な二つの要素が一つの作品として結実している。これを傑作と言わずして何と呼べるのか。
さらに言えば、この短編集は映画化される予定らしいが、メディアが違う以上、この作品群をどのように一つの作品にするのだろうか。そういった点も今から非常に楽しみだ。