【歌詞考察】Official髭男dism『Same Blue』
視線の移ろいが描く、存在への愛

Official髭男dism『Same Blue』といえば、マンガ『アオのハコ』のアニメ主題歌として知っている人は多いだろう。青春恋愛マンガのオープニング曲なだけあって、「好き」という気持ちがまっすぐに表現されている曲だと思われがちだが、歌詞の意味を一つ一つかみ砕くことで、見事という他しかない構造が現れる。
本論では、同曲において視線の動き方が非常に巧みに構成されている点に注目したい。この楽曲では、歌詞の流れに沿って視線のフォーカスが段階的に変化し、それがそのまま感情の揺れ動きを表しているのだ。さっそく説明していきたい
視線の移ろいが感情の揺れを表す
まず、サビに入る前の歌詞では、視線は「自分」に向いていることがわかるだろうか。具体的には、自身の「気持ちの整理」や「胸の奥」、「想い」といった内面に焦点が当てられ、心の中の葛藤や感情の動きが強調されている。しかし、その視線はサビに入ると、変化し始める。「春の中あなたを見た」「そのすべてが似合っていた」といったフレーズに見られるように、風景の中に「あなた」を捉えるようになるのがその例だ。ここでは、春夏秋冬という広がりのある世界の中に「あなた」を見出し、視線が自分の内面から外へと開かれていく過程が描かれる。
そして、楽曲の最後には「よそ見する暇もない」と続き、「あなたという季節の中」というフレーズで締めくくられる。この変化は、視線のピントがついに「あなた」そのものに合う瞬間を象徴しているといえるのではないだろうか。つまり、視線の移ろいが「自分の内面」→「風景の中のあなた」→「あなたそのもの」という流れを描き、感情の深化や関係の確信へとつながっていくという構造がここにはあるのだ。
視線を合わせない恋心──「落ち着かなさ」の表現
この視線の移ろいをさらに細かく見ていこう。先程の「風景の中のあなた」を捉える前に、「近くて遠い」「減らそう」「増える」といった逆のフレーズが登場していることに気付く。例えば「近くて遠い日々にめまいがした」や、続く「落ち込んで浮かれての寒暖差」などが、該当する。これらは、まっすぐに「あなた」を見つめることができない揺れ動く感情を象徴しているといえるだろう。好きだからこそ視線を合わせられない、照れくささや落ち着かなさが漂う言葉選びになっており、ここにリアルな感情の機微が表れているというのは、納得してもらえる部分だと思う。
「あなたという季節」が示す、存在への愛
また、この楽曲の歌詞には「唇」や「笑顔」など、身体のパーツや具体的な仕草を表す表現が一切登場しない点も興味深い。多くのラブソングでは、恋愛対象の人物を象徴的な部位や行動で表現することが多いが、『Same Blue』では徹底して「あなた」としか言及されない。これは、部分的なフェティシズムではなく、相手の存在そのものを愛していることを示していると考えられないだろうか。「あなた」という単語が繰り返されることで、歌詞全体が「存在そのものへの愛」というメッセージを強く打ち出しているのである。
この視点で「あなたという季節」というフレーズを捉えると、それは単なる時間的な比喩ではなく、「あなたという世界」という意味を持つと解釈できる。季節は移ろいゆくものでありながらも、そこにいる「あなた」が中心になっているという表現は、「あなた」という存在が視線の送り主にとってすべてであることを表しているのだろう。視線のピントが最終的に「あなた」に定まり、世界のすべてが「あなた」というフィルターを通して見えるようになっていく構成は、歌詞の巧みな構造によって生み出された感情の高まりを象徴している。
『Same Blue』の歌詞は、視線の動きを通して、恋愛における心の揺れとその収束を見事に描き出している。内省から始まり、風景の中に「あなた」を見つけ、最終的に「あなた」そのものにフォーカスが合うという流れは、恋愛感情の発展と深まりを象徴している。加えて、身体的なフェティシズムを排し、「あなた」という存在そのものを描くことで、より純粋な愛の形を表現している点も、この楽曲の大きな魅力である。このような歌詞の構成の妙が、『Same Blue』の持つ情緒の深さを生み出しているのである。