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  • 【マンガ考察】『NANA』が映した古い女性像

    導入|なぜ、彼女たちは「戦う」のをやめたのか? 2000年代前半、矢沢あいの『NANA』は爆発的な人気を博し、少女マンガの地平を一変させたかのように見えた。性愛、妊娠、夢と挫折──それまでのファンタジックな恋愛譚とは異なり、現実に即した「痛み」のなかで生きる若者たちの姿は、同時代の読者の共感を強く呼び起こした。だが、その表層の「リアルさ」とは裏腹に、この物語

  • 【歌詞考察】挫折P『存在証明』

    名指されない声のために あなたが『存在証明』の歌詞に惹かれるのは、語り手の声がどこまでも“届かないこと”を知りながら、それでも差し出されていると気づいてしまったからかもしれない。誰かを救いたくて、ただそばにいたくて、ほんの数センチの距離に心が滲んでいるのに、それを言葉にするにはあまりにも世界が冷たく、慎ましすぎる。 この曲の語り手は「救いたい」と叫んでいるわ

  • 【歌詞考察】椎名林檎『本能』

    抑圧の臨界に触れる声 あなたが椎名林檎『本能』の歌詞に惹かれるのは、それが単なる衝動の開放ではないと知っているからだろう。この歌に響くのは、「欲しい」と叫ぶ声ではなく、「これ以上、押さえていたくない」という逸脱寸前のうめき声だ。社会的な役割、正しさ、優しさ──そうした皮膚を一枚ずつ剥ぎ取った先に残った、生の表面。『本能』はそこに指を置いている。 「約束は要ら

  • 【歌詞考察】GLAMOROUS SKY

    意味のない疾走に名前をつけるために あなたが『GLAMOROUS SKY』の歌詞に惹かれるのは、きっとそこに「壊れてもいい」と願ったことのある自分を見出してしまったからだ。この曲が語るのは、勝利でも再生でもない。むしろ、絶望の中に身を投じ、それでも空を見上げてしまう癖のような希望だ。 「繰り返す日々に何の意味があるの?」という叫びには、現状への飽和だけでなく

  • 【歌詞考察】サカナクション『怪獣』

    叫びは届かなくても、声にはなる あなたがサカナクション『怪獣』に惹かれるのは、それがただの哲学的言語遊戯ではなく、説明できなかった孤独に名前を与えるような歌だからではないだろうか。 この歌は語らない。むしろ、語りたくなかったことの輪郭を、そっと撫でていく。言葉の内側に沈んだ「秘密」や「知識」は、誰にも渡されることなく、ただ“夜の怪獣”としてそこに残る。 それ

  • 【歌詞考察】なとり『DRESSING ROOM』

    「真似できないスピード」に、誰も追いつけない夜 あなたがこの曲に引き寄せられたのは、言葉にする前にすべてがすり減ってしまうような夜を知っているからかもしれない。なとり『DRESSING ROOM』が描くのは、冷めきった街と感情の中で、それでもどこか踊り続けてしまう“誰か”の実存だ。 〈細胞単位で踊りたい〉と始まるこの歌は、すべてを突き抜けるような衝動と、それ

  • 【歌詞考察】ツミキ『フォニイ』

    2020年代のサブカルチャーには、“物語の後”の世界観が色濃く漂っている。恋愛、青春、家族といった価値を一度は信じ、裏切られたあとの「残骸」――そこに立ち尽くす人々の感情を描くこの傾向を、ここでは仮に「アフター系」と呼ぶ。 アフター系とは、成長や救済のドラマを否定し、その“不在”と共に生きる感覚である。この文脈において、ボカロ曲『フォニイ』は、その中心に咲く

  • 【歌詞考察】ぽわぽわP『少女A』

    導入──なぜ今、『少女A』なのか? 2020年代以降、ネット文化とともに成熟してきたボカロ楽曲群は、その言葉の不安定さや“個”への執着を、より内省的な形式で表現するようになった。ぽわぽわPによる『少女A』もまた、そうした系譜の中にある。反復される寒さ、遠さ、怖さといった感覚語は、感情が過剰であるがゆえに表現しきれない“距離”そのものを暴露している。なぜ今、こ

  • 【歌詞考察】バルーン『シャルル』

    ——成長も関係も否定された後に残るもの バルーンによる《シャルル》は、2016年に発表されたボカロ楽曲である。疾走感のあるメロディと繰り返される別れの情景が、多くの人々の共感を呼び、現在も広く聴かれている。しかし、この楽曲が提示するのは、単なる恋愛の失敗や感傷ではない。そこに描かれているのは、関係の終焉というより、関係の不成立のような不在の手触りであり、感情

  • 【歌詞考察】稲葉曇『ラグトレイン』

    『ラグトレイン』は、稲葉曇(いなばくもり)が手掛けるボカロPとしての代表作のひとつであり、歌愛ユキを使用した楽曲である。この曲は2021年9月5日にリリースされ、独特のメロディと切ない歌詞で多くのリスナーの心をつかんだ。本論では歌詞の意味を考察しながら、この曲に秘められたメッセージを読み解いていきたい。 失くした言葉を探す旅 まず注目してほしいことがある。『

  • 【歌詞考察】ヨルシカ『ただ君に晴れ』

    2018年5月4日にリリースされヨルシカによる楽曲「ただ君に晴れ」。この曲は、ボカロPとして知られるn-bunaによる作曲を、ボーカルのsuisが透明感あふれる声で歌い上げる。発表から数年が経過した今も、人気の歌だ。歌詞は、過去の思い出に対する切なさが表現されており、「僕」が「君」との思い出を手放せずにいる様子が描かれている。 しかし、この曲の真価はこのよう

  • 【歌詞考察】Official髭男dism『Same Blue』

    Official髭男dism『Same Blue』といえば、マンガ『アオのハコ』のアニメ主題歌として知っている人は多いだろう。青春恋愛マンガのオープニング曲なだけあって、「好き」という気持ちがまっすぐに表現されている曲だと思われがちだが、歌詞の意味を一つ一つかみ砕くことで、見事という他しかない構造が現れる。 本論では、同曲において視線の動き方が非常に巧みに構

  • 【歌詞考察】なきそfeat.歌愛ユキ『ド屑』

    『ド屑』は、ボカロPなきそが制作した楽曲で、歌手として歌愛ユキがフィーチャリングされている。この曲は2022年3月5日に配信リリースされ、公開から1ヶ月足らずでミュージックビデオの再生回数が100万回を突破するなど、高い人気を誇っていることは数値が示しているとおりだ。 一方で『ド屑』は、一見すると「男に弄ばれた女の復讐劇」にも見えるが、歌詞を丁寧に読解すると

  • 【歌詞考察】DECO*27『テレパシ』

    ボカロ曲『テレパシ』は、大量のパロディ、ネットミームで構成されたMVを背景にしつつ、自身の恋愛感情を歌っている人気の楽曲だ。ネット上の考察は、このミームの元ネタ探しに奔走しているようだが、 重大な点が三つ見過ごされている 。 一つは『テレパシ』というタイトルの謎。二つ目が、なぜこの曲のMVがネットミームで構成されているのか。最後は、この曲の歌詞が「片思い」の

  • 【歌詞考察】ピノキオピー『超主人公』が問いかける「物語の終わり」の不可能性

    『超主人公』(ちょうしゅじんこう)は、2025年2月14日に公開された楽曲であり、ボカロPのピノキオピーによって作曲、作詞、イラスト、動画が手掛けられている。 一見するとシンプルなメッセージを発している本曲だが、歌詞のテーマや内容については多くの解釈を可能にし、フォロワーやリスナーからの考察が活発に行われている。 本論では、歌詞の意味を考察することによって、

  • 【歌詞考察】DECO*27『モニタリング』

    DECO*27のボカロ曲『モニタリング』は、2024年12月に発表された楽曲だ。この曲は、他者に対する欲望や恋心をテーマにしたものであるが、本曲の結末などの解釈をめぐって、リスナーに活発な議論を巻き起こしている。 なるほど。たしかに『モニタリング』は、一見するとヤンデレ的な楽曲である。特に出だしの「ねえあたし知ってるよ/きみがひとりしてるの知ってるよ」はMV

  • 【あらすじ・感想】『世界で一番透きとおった物語』1000人の感想総まとめ! 感動の声と賛否を徹底検証

    0. あらすじ--「遺稿」が導く父の素顔 母を亡くした主人公・藤阪橙真は、ひょんなことから一度も会ったことのない推理作家の父・宮内彰吾の遺稿を探すことになってしまった。 知り合いの文芸編集者・霧子と協力して父の業界関係者や愛人たちを調査し、次第に父の複雑な人物像を知っていく。 しかし、この過程で遺稿を狙う何者かによる妨害が主人公の周りで起こり始め――。 1.

  • 【歌詞考察】kanaria『酔いどれ知らず』

    深いテーマと悲恋の解釈 『酔いどれ知らず』という曲をご存じだろうか。多くの人々に愛され、歌詞には深い意味が込められているこの歌は、特に若い世代の間で人気が高い。その人気を示すようにネットには感想が多く転がっている。それらは歌のタイトル『酔いどれ知らず』が示すように、酔っ払いのように現実から逃れたいと願う心情を描いているというのが多い。 たしかに一般的には、こ

  • 【あらすじ・感想】 呉勝浩『爆弾』―読者1000人に聞いてみたスリリングな展開とキャラクター描写を徹底分析

    『爆弾』に対する読者の感想 呉勝浩氏の小説『爆弾』は、スリリングな展開と意外な結末が魅力のミステリー作品として、多くの読者に楽しまれている。本作の幕開けは衝撃的なシーンからだ。自称スズキタゴサクという男が警察に「十時に爆発があります」と予告し、実際に秋葉原で爆発が起こるのだ。読者は、この予測不能なストーリーに引き込まれ、最後まで飽きることなく読み進められると

  • 【歌詞考察】黒うさP『千本桜』

    大ヒットボカロ曲が映す理想化された日本の虚構性 『千本桜」』といえば、ボカロ曲を聴く人であればだれもが知っているであろう。 黒うさPによって作詞・作曲され、初音ミクが歌唱するボカロ楽曲であり2011年に公開されるやいなや、瞬く間の音楽ファンを魅了した。 その力強いメロディーと歌詞、そして視覚的にも強いインパクトを有した楽曲だが何よりの魅力は、その 独自の世界

  • 【歌詞考察】ピノキオピー『嘘ミーム』feat. 初音ミク

    「嘘ミーム」が映す現代社会の真実 現代社会は、情報の氾濫とともに事実と虚構の境界が曖昧になりつつある。 そんな時代背景の中でピノキオピーによる『嘘ミーム』は、その独特なメロディと歌詞で多くのリスナーを魅了している。 楽曲内では、嘘と真実の間で揺れ動く感情が巧みに表現されており、その心理描写が深い共感を呼んでいる。 特に、SNSや現代社会における情報の曖昧さ、

  • 【歌詞考察】『ヨワネハキ』歌詞に込められた現代の切迫感と生き方

    『ヨワネハキ』は、和ぬか、asmi、MAISONdesによる楽曲で、TikTokを中心に爆発的な人気を誇る一曲だ。独特なメロディと歌詞が特徴の本曲は多くのリスナーの心に今でも深く響いている。特に、歌詞の中で描かれる感情や状況が共感を呼び、多くの人々がその意味を考察している。このブログでは、『ヨワネハキ』の歌詞に込められた意味を考察・深掘りすると同時に、人気の

  • 【名セリフ考察】鬼滅の刃:なぜ炭治郎は無惨のあの台詞に激怒したのか

    『鬼滅の刃』。この作品を改めて紹介することはあまり意味がないと思う。アニメ化・映画化にもなり『無限列車編』の国内における興行収入は400億円以上にもなった。一般的にアニメ映画では10億に到達すればヒット作と言われているなかで、前述の数字が驚異的なものであることは疑いようがないだろう。現在でも劇場アニメ『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』が三部作で制作されることが発

  • 【歌詞考察】RADWIMPS『前前前世』運命か、執着か。ホントは怖い大ヒット曲

    メガヒット映画『君の名は』の挿入歌として、多くの人が知っている曲RADWIMPS『前前前世』。アップテンポな曲調やボーイミーツガールのアニメ映画に使用されたことから、爽やかな歌として認知されているはずだ。 しかし、ある補助線をひくだけで、この曲は恐ろしく怖い内容に変貌する。 結論を言おう。 この曲は、ストーカーの歌に聞くこともできるのだ 。さっそく確認してみ

  • 【歌詞考察】すりぃ feat.鏡音レン『テレキャスタービーボーイ』

    もはやレジェンドといっても過言ではないだろう。ボカロ曲『テレキャスタービーボーイ』といえば、その疾走感あふれる曲調とかわいらしいキャラクターによるMV、なにより考察を誘発させる意味深長な歌詞により多くの人から愛されてきた名曲だ。 一方で、生み出された考察は、どこかまとまりのない内容だったり、映像の解釈に終始している印象がある。 そこで本論は、 そんな『テレキ

  • 【歌詞考察】いよわ『きゅうくらりん』

    いよわ『きゅうくらりん』といえば、多くの人にカバーされており、そのキュートな歌詞と胸をざわつかせるメロディから、今でも多くの人に聞かれている名曲だ。当然のようにネットにはたくさんの考察が転がっており、そのほとんどが本曲の歌詞から切ない恋心を読み取ったものだ。 しかし、本論ではあえて、その逆の道を行きたい。つまり『きゅうくらりん』を「怖い曲」として歌詞を読み解

  • 【歌詞考察】Orangestar feat. IA『アスノヨゾラ哨戒班』

    ボカロ界の名曲『アスノヨゾラ哨戒班』。本曲の考察は「将来に不安を持つ少年の「僕」が「君」と出会うことで、未来に希望を持つようになった曲」というものが、ほぼ定説のようになってきている。 一方で「君」とは何者だったのかという点については、ほぼ誰も触れていない。しかし、その点を無視することは『アスノヨゾラ哨戒班』の大事なポイントを見落とすことにつながる 。 定説を

  • 【歌詞考察】いよわ feat.星界『異星にいこうね』

    いよわ feat. 星界『異星にいこうね』は、ポップな曲調と次第に不気味感を増す歌詞が魅力の楽曲であり、様々な人にカバーされている。一方で、ここでいう「不気味感を増す歌詞」については、ネットに様々な考察が転がっている。それらを総合すると、本曲は異星人の恋の歌というのが一般的な理解だと思われる。しかし、本当にそうだろうか。歌詞から考えるにそう判断するのは早計の

  • 「2ちゃんねる」開設者・ひろゆき(西村博之)の名言

    西村博之、あるいは「ひろゆき」という名前を知らない人のほうが今や珍しいだろう。ゼロ年代は「2ちゃんねる」開設者として、二十年代には専門家や評論家に対して舌鋒鋭い論戦を仕掛けるコメンテーターとして、世間をにぎわせている。 さて、紹介したい名言あるいは解答というのは、ひろゆき自身のYouTubeチャンネルにて「若いころにリストカットをした跡に対して、幼い子から「

  • 【歌詞考察】164 feat. GUMI『天ノ弱』

    本論を書くうえで164 feat. GUMI『天ノ弱』に関する考察をいくつか読んだ。根強い人気楽曲なだけに、やはり大量の考察があった。ただネットに転がっている解釈たちは、 あまりにも書き手や聞き手の存在に寄せすぎているという欠点がある 。この曲が愛や友情をテーマにしていることは理解できる。 しかし、『天ノ弱』という曲の重要なポイントは これが死者からの視点だ

  • 【歌詞考察】柊マグネタイト『テトリス』

    生きづらさという便利な言葉があるが、その核心を掴むことは難しい。だが僅かな兆候に目を光らせ、耳を澄ませることで苦しみの根源に触れることができる。柊マグネタイト『テトリス』という曲は、そのポップな曲調とは裏腹に、現代を生きることの困難が刻まれている。本論は『テトリス』の難解な歌詞の意味を考察することで、その「困難」を解読していくことを試みていく。 『テトリス』

  • 【歌詞考察】なとり『Overdose』

    もはや「解釈」というものは不要なのかもしれない。スマホを開けば簡単に「正解」が見つかる現代において正解がない「解釈」という行為は、多くの人に忌避される行為となってしまったかのように思う。 しかし、人の心を推し量ることは、どうしても私たちの生活にまとわりついてくる。例えば誰かを好きになったとき、相手の心を知ろうとして些細な行為や言葉を「解釈」してしまう。そのも

  • 【歌詞考察】Chinozo『グッバイ宣言』

    僕らにとって「正義」や「悪」とは何か 。ボカロP・Chinozoの楽曲『グッバイ宣言』の「引き籠り絶対ジャスティス」という歌詞からは、そんなことを考えさせられてしまう。 ここでは、現代社会を分析する専門的な知見を用いて『グッバイ宣言」の歌詞をなぞりながら、この曲がなぜ人気なのか、流行った理由とは何かについて考察していきたい。 この曲に惹きつけられる人や気にな

  • 【歌詞考察】メル『さよなら、花泥棒さん』

    全ての恋が「綺麗」なわけではない。「普通」の付き合い方がわからない人もいる 。これら「綺麗」や「普通」を定義することは難しいけれど、例えば、何かしらの罪のように、人に言えないことを共有してしまうことや、終わりがあらかじめわかってしまっていること、死の予感が常に漂っている恋は、多分「普通」ではないし「綺麗」でもないだろう。でも、そういう毒々しい恋は、いつの時代

  • 【歌詞考察】吉田夜世『オーバーライド』の魅力

    自分の本心を曝け出せる時間は、人生においてどの程度あるだろう。同時に、自分のことを言葉以外のところから汲み取ってくれる人との奇跡のような出会いは、どの程度あるのだろう。YoutubeやTikitokなど、様々な動画投稿サイトで流れる曲、吉田夜世『オーバーライド』も、実はそんな要素が含まれると考えることができるとすれば、あなたはどう思うだろうか。ボーカロイド・

  • 【あらすじ・考察】『ハサミ男』平成の産声としての「ハサミ男」

    「平成」という時代を1文字で表すとすれば「狂」ではないだろうか。震災や少年少女による殺人、経済の不安定化によるライフステージの崩壊と狂騒。文化も制度も人々の精神も「狂」の文字がチラついた。そのような時代の空気に対して最も鋭敏に反応したのがミステリーであり、殊能将之『ハサミ男』だろう。1999年、第13回メフィスト賞を受賞したこの作品は、 「平成」ミステリーの

  • 【あらすじと感想】『#真相をお話しします』(結城 真一郎)読みやすさと驚きを両立させた傑作ミステリー短編集

    謎の館、脱出できない孤島など、周到な伏線や緻密なロジックを積み上げるクラシックなミステリーも面白いけれど、時代を反映させ、問題提起をなすミステリーも同様に強烈に人を惹きつける。本文では結城慎一郎の短編集『#真相をお話しします』を後者と位置づけ、いくつかをピックアップし、その魅力を紹介していきたい。 映画化もされるこの本は、そういった時事的なギミックを好む人や

  • 【要約・考察】『14歳からの社会学』宮台真司を読むなら、まずこの一冊から!

    「人が抱えた困難や弱さに寄り添わないなんて、ひどい人だ」。宮台真司という社会学者が一般向けに書いた本を読んで、私はそんなことを思ったことがある。自己責任論の嵐が吹き荒れる時代に、傷つくことを肯定し、タフに生きることを奨励しているように読めたからだ。けど本書『14歳からの社会学』を読むことで、宮台真司に対する大きな誤解が解けた。「ひどい人だ」と思った頃、私はま

  • 【要約・考察】勅使河原真衣『働くということ』「能力」という呪縛を解きほぐす

    「働き方」の改革は、いつ成功するのだろう。今日より素晴らしい明日が来ると信じ、改革という甘い毒を飲み干した私たちに残ったのは、すさまじいプレッシャーと果てない競争によってズタズタになった心と身体だけではないだろうか。私たちは改めて問わなければいけない。「改革」は、なぜ失敗したのか。そして、私たちを惑わせた毒で一体、誰が得をしたのだろうか。勅使河原真衣『働くと

  • 【要約・考察】『ディスタンクシオン』嘲笑と冷笑に抗する社会学

    ※ 本文は岸政彦『ディスタンクシオン(100分de名著)』を参照しています。 誰かの人生を簡単に嗤うなよ。ゴシップで盛り上がる他者の反応を見るにつけ、そう思う。誰もが誰かの選択を嘲笑し、さながら神様のような立ち位置から、その生い立ちを論評する様子に違和感を覚える。「一生懸命に考えた結果だ」「頭が良かろうが悪かろうが、その人はその人の最善を尽くしたのだ」という

  • 【要約・考察】『私とは何か「個人」から「分人」へ』 「私」の生き方の処方箋

    「本当の自分」を探したことはあるだろうか。思春期の専売特許と思われていたが、今では「大人」も「本当の自分」を探しているはずだ。適切なキャリアや自己啓発書を読むとき、新しい職場を探すとき、そこには「本当の自分」が暗に想定されている。小説家・平野啓一郎の本『私とは何か「個人」から「分人」へ』は、そのような考えに警鐘を鳴らす。本論では『私とは何か』の要約と、 ここ

  • 【要約・考察】『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』メタ・ビジネス書のすすめ

    なぜ働いていると本が読めなくなるのか。本書を貫く問いは、タイトルのとおりだ。この本は、そんな問いに対して労働史、特にビジネスマンという階級・階層の揺れ動き、そしてベストセラーなどにみる日本人の読書の歴史という二つの柱の関係性から答えを導き出していく。このページでは、その関係性の歴史を要約すると同時に、本書が導き出した答えに対して、別の視点からの解釈を試みたい

  • 【要約・考察】『バカと無知』(橘玲)私たちは「人間」を知るべきである

    ネットでは今日も誰かが燃えているのだろう。そう思ってしまうほどに社会問題の噴出と人々の分断は進んでいる。この現状の原因について、政治的右派は愛国心の欠如、政治的左派は資本家や国家権力による作為的なものと考えているのかもしれない。しかし、そうではないと断言するのが『バカと無知』である。上述の原因が克服されたとして、私たちは争い続ける。なぜか。 「人間」そのもの

  • 【要約・書評】『ネット右翼になった父』大切な人に「ネトウヨかも?」と思ったら読むべき本

    「実家に帰ったら両親が「ネット右翼」になっていた」というのは、筆者の周囲でも耳にする話だ。ここでいう「ネット右翼」の定義については諸説あるが、今回参考にしている『ネット右翼になった父』では以下のことを特徴としている。 「①中韓(主に韓国に対しての批判 ②社会的弱者に対する無理解(生活保護・シングルマザー・発達障害関連での発言) ③保守論壇の主張に含まれる「伝

  • 【あらすじと感想】本屋大賞受賞作『成瀬は天下を取りにいく』成瀬はなぜ愛されるのか

    「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」。この一文から始まるのは二〇二四年本屋大賞受賞作『成瀬は天下を取りにいく』だ。本論では、この小説の簡単なあらすじを紹介し、感想を交えながらなぜこの作品、もとい、主人公である「成瀬」が読者を惹きつけるのか、その理由を「地方」という点から考えていきたい。 あらすじと魅力 本作は全部で六章の構成となっており、それぞれ異

  • 【要約・書評】『職場を腐らせる人たち』「ハラスメント」への処方箋。社会人、必読の書!

    「ハラスメント」が横行する昨今、私たちに必要なことは沢山の事例を知ることと個人単位でできる対処法を学ぶことだ。そんな要望に応えるのが精神科医・片田珠美『職場を腐らせる人たち』である。ここでは本書の要約と、この本の分析の限界点について考察していきたい。 『職場を腐らせる人たち』要約 『職場を腐らせる人たち』は大きく三つに分けることができる。第一章は著者自身の診

  • 【要約・考察】『日本人の法意識』ブラック企業の温床? 日本にとって「法」とは何か。

    過労死やパワハラ・セクハラ、様々な偽装などのニュースを見るにつけ、最悪の事態になるまでどうして「法律」は対処できないのかと思わずにはいられない。この問題について、日本人の「法意識」という点から回答を導きだせるのが、法社会学の古典にして名著、川島武宣『日本人の法意識』だ。本論では、この本の簡単な要約と、上述した問題への解答となりうる箇所について紹介したいと思う

  • 【要約・書評】『人新世の「資本論」』2021年新書大賞作。いざ、21世紀のマルクスへ!

    手元にある『資本論』の帯文には「危機のたびに甦るこの難解さ、この面白さ!」とある。そして実際に蘇った。それこそが経済思想家の斎藤幸平『人新世の「資本論」』である。本論では二〇二一年の新書大賞を受賞した『人新世の「資本論」』の要約と、本書が抱える困難について、最近発売された橘玲『テクノ・リバタリアン』と照らし合わせながら考察を加える。 『人新世の「資本論」』の

  • 【名言】日本人初プロゲーマー・梅原大吾の言葉

    個性が尊重される時代ですが、「人並み」ではないというのはやはり辛いものです。そんな「人並み」ではないことに傷ついた学生の相談に耳を傾けるのは 日本人初のプロゲーマー・梅原大吾 。彼もまたプロゲーマーという地位を確立するまでは、「人並み」ではないことに思い悩んでいたそうです。梅原はまずこう言います。「よくぞ相談してくれました!私に!」 梅原は「俺なんかはモロに

  • 【要約・考察】『日本の思想』「日本」という国を幻惑する「思想」とは何か

    あえて挑発的なことを言えば「日本」という国、あるいは社会を知りたければ、まずはこの一冊からだろう。それが名著にして日本論の古典、政治学者・丸山真男の著書『日本の思想』である。「日本の思想」「近代日本の思想と文学」「思想のあり方について」「「である」ことと「する」こと」の四章で構成されている本書を、簡潔に要約することは筆者の手に余ることは正直に告白しなければな

  • 【要約・考察】『テクノ・リバタリアン』新時代からの誘惑と挑発

    「革命のような「大きな物語」の幻想がすべて潰えたいま、テクノ・リバタリアニズムが「世界を変える唯一の思想」になった」。こう宣言するのは作家・橘玲の本『テクノ・テクノ・リバタリアン』だ。「テクノ・リバタリアン」とは「自由を重視する功利主義者のうち、きわめて高い論理・数学的能力をもつ者たち」とされている。その代表的な人物を「イーロン・マスク」「ピータ・ティール」

  • 【要約・考察】『ブルシット・ジョブの謎』クソどうでもいい仕事の謎と罠

    「仕事のための仕事」「会議のための事前打ち合わせ」「ブレストという名の愚痴大会」。これら亡霊のような仕事があなたの周りにもないだろうか。内心では「どうでもいい」「なんの意味がある」と誰もが思っているはずなのに、どこからか発生する謎の仕事。この答えを明かしてくれるのが講談社現代新書から発売されている『ブルシット・ジョブの謎』という本だ。本書は「ブルシット・ジョ

  • 【要約・考察】『生きづらい明治社会』「生きづらさ」の理由は性格か、社会構造か。

    「生きづらさ」を覚える原因というのは往々にして当人の性格によるものだと思われがちだ。ましてや便利な言葉が増える現代において、「生きづらさ」ものに心理的な病名が付きがちだというのは多くの人が感じているところだろう。だが「生きづらさ」=本人の気質という図式は真実なのだろうか。 僕らを取り巻く仕事や社会規範、経済だって「生きづらさ」を生んでいるのではないだろうか

  • 【要約・考察】『友だち幻想』「友だち」でいることが辛い人たちへの励ましの一冊

    菅野仁の『友だち幻想』を十代の頃に読んでいたら、きっと泣いていたと思う。「「友だち」と一緒にいるのに辛いなんて、きっと自分はおかしいんだ」と思っていたから、 この本に宿る「大丈夫、変じゃないよ」というメッセージに励まれたはずだ 。本論では、そんな素敵な本『友だち幻想』の要約と考察を述べていきたい。 『友だち幻想』の要約と「励まし」 本書の構成は大きく四つに分

  • 【要約・考察】『社会学入門』ようこそ、「関係としての人間の学」の社会学へ!

    「自分にとってほんとうに大切である問題、その問題と格闘するために全青春をかけても悔いないと思える問題を手放すことなく、どこまでも追及しつづけることの中に、社会学を学ぶ、社会学を生きるということの<至福>はあります」。これは社会学者・見田宗介『社会学入門』の冒頭の文章だ。本書は「入門」であるものの、「社会学」の入門ではなく、前述した「社会学を生きること」、「ど

  • ゲームクリエイター・桜井 政博の名言

    ゲーム好きであれば『星のカービィ』や『大乱闘スマッシュブラザーズ』という作品名は知っていると思う。紹介した言葉は、それらゲームの生みの親である桜井政博氏の言葉だ。下部のリンクに桜井氏のYouTubeチャンネル『桜井政博のゲーム作るには』のなかの一本である「とにかくやれ!! 【仕事の姿勢】」を張らせてもらった。ここに先のセリフ「やる気が出ないことに対して深く考

  • 【要約・考察】「客観的」は本当に良いことなのか?

    自分の悩みを相談したとき「そんなの、みんな同じだよ」という回答にモヤモヤを抱いてしまうのは私だけだろうか。適当に頷くものの、内心では「いや「みんな」なんてどうでもいい。苦しいのは、この「私」なんだ」と毒づいてしまう。この「みんな同じ」という回答は「客観的にみて、君の悩みは「悩み」とは言えない」と言われている気分になるのだ。だが昨今では「客観」が万能の道具のよ

  • 【歌詞考察】七尾旅人『サーカスナイト』の魅力

    「明日があるから」ということが楽しい時間を切り上げるようになったのはいつからだろう。これが例えば、好きな人と過ごしている時間でも「明日がある」というのが僕たちの至福を強制終了させる。けれど今よりずっと若いときは、そんなことはなかった。僕だけではない。あなたたちだってきっとそうだ。 「今日」の幸せと「明日」の憂鬱の間で、僕たちは「今がずっと続けば」と願ったこと

  • 【歌詞考察】Back number『ブルーアンバー』

    泣いていた理由を、誰にも言わなかったあなたへ あなたがBack number『ブルーアンバー』に心を掴まれたのは、きっと「言葉にしなかった感情」が、自分の中にも沈殿していたからだろう。この歌が描くのは、誰にも見せられなかった涙の色、そして“見つけられなかったままの自分”である。 歌い出しの〈抱きしめられた記憶〉は、過去に起きた傷ではなく、「今も残り続けている

  • 【要約・感想】國分功一郎『はじめてのスピノザ』スピノザが問いかける自由の本質とは

    國分功一郎の『はじめてのスピノザ』は、17世紀の哲学者スピノザの思想を、現代の重要な視点からわかりやすく解説している。閉塞感が漂う現代において、私たちは一般的に持つ「引き受け」や「自由」の概念を再構築し、別の世界の在り様を思考すべきなのではないだろうか。本書はスピノザの哲学を通して、そのための視座を与えてくれる。 要約 第一章:「組み合わせとしての善悪」 ま

  • 【歌詞考察】DECO*27『ラビットホール』

    純愛への憧れと斜に構えた心情 DECO*27が作詞・作曲を手掛けたボカロ曲『ラビットホール』は、 ポップで軽快な曲調 に心奪われがちだが、実は、 純愛に対する憧れ を持ちながらも、それを素直に受け入れられない 斜に構えた態度 が描かれている。 本論ではそのことを歌詞の意味から読み解いていくと同時に、その態度が、曲中でどのような結末を迎えるのか考察していきたい

  • 【名言・考察】新海誠監督作品『秒速5センチメートル』より

    仕事を辞めたいなと思ったとき、どこからともなく湧き上がる言葉がある。「そしてある朝 かつてあれほどまでに真剣で切実だった思いが綺麗に失われていることに僕は気づき もう限界だと知ったとき会社を辞めた」。『君の名は』『天気の子』『すずめの戸締り』で有名な新海誠の作品『秒速5センチメートル』の主人公・遠野貴樹の独白である。 仕事に忙殺されていることや、社会人であれ

  • 【歌詞考察】『晩餐歌』はなぜ名曲なのか –タイパ時代の「価値」と「愛」について–

    『晩餐歌』という歌が人気を博している。日本のシンガーソングライター・tuki.による楽曲で若年層を中心に多く聞かれている歌の一つに数えられるだろう。愛する人を傷つけてしまったこと、好きだからこそ離れられないことの葛藤を歌い上げている。曲中で特に印象的なのは「「何十回の夜を過ごしたって得られぬような」というフレーズだろう。この歌詞が言葉にできないほどの愛情の大

  • 『意識と自己』(講談社学術文庫/アントニオ・ダマシオ)

    人々が抱いている世界観を一新する本が存在する 。例えば進化生物学者リチャード・ドーキンス『利己的な遺伝子』やマーヴィン・ミンスキー『心の社会』などがそうだろう。そしてこれから紹介するアントニオ・ダマシオ『意識と自己』もそのようなうちの一冊に並べられるべきだと私は思う。 ところで私たちは「感情」や「意識」と言ったものについて、どのようなイメージを抱いているだろ

  • 小説『君が手にするはずだった黄金について』 著:小川 哲

    「俺をみてくれ!」と言いたげな人が多くいることを私たちはSNSで知っている。そして、 そんな人々の滑稽ともいえる行動に笑いそうになる経験があるのなら、私は本書を勧めたい 。 主人公は本書の作者を彷彿とさせるような人物。冒頭では大学生だった彼は物語の進行とともに年を重ね、小説家となり、様々な人と出会う。作家志望の女性、資産運用のプロとして有名になった旧友、著名

  • 【考察】小説『ハーモニー』著:伊藤 計劃

    今の世の中に違和感を覚えている人、そしてSFというジャンルの凄みを味わいたい人に強く勧めたいです。本作の舞台は21世紀後半の世界。そこは医療の発達により病気だけではなく恐怖や不安が排除された社会でした。しかし その中で起きた全人類を巻き込んだ大混乱のなかで、主人公はかつて死んだはずの友人の面影を追うことになります。 「永遠と人々が思っているものに、不意打ちを

  • 【歌詞考察】歌・米津玄師『KICK BACK』の言葉

    「共感」といえば、悲しいことや傷つくことに対するものというイメージが一般的だろう。一方で「憤怒」や「焦燥感」への同調されることはあまり期待できないと思う。 しかしそんなダメ元の期待に米津玄師『KICK BACK』は応えてくれる 。綺麗ごとに対する否。「「止まない雨はない」より先にその傘をくれよ」というフレーズはそのことを象徴している。 だが、そういった攻撃的

  • 【歌詞考察】THEE MICHELLE GUN ELEPHANT『世界の終わり』の歌詞

    「 悪いのは全部君だと思ってた くるってるのはあんたなんだって 」。これほど引き込まれる歌詞を私は知らない。ここで紹介するTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTの『世界の終わり』を知らない人も多いと思う。もしかしたらボーカルである「チバユウスケ」の名前であれば聞いたことある人もいるのではないか。23年の紅白歌合戦では、映画『THE FIRST

  • 【コラム】井上尚弥は、いかにして“モンスター”となったのか -井上真吾『努力は天才に勝る!』より-

    「尚のボクシングは自分が理想とする「打たせずに打つ」攻防一体を目指しています」と語るのは、井上尚弥の父・井上真吾だ。『努力は天才に勝る!』という本には、 井上尚弥がどのようにして「モンスター」とまで呼ばれるほど、無類の強さを手に入れたのか 、その舞台裏が真吾氏によって記されている。本論では、この舞台裏、言い換えれば、尚弥氏の強さの秘密を『努力は天才に勝る!』

  • 【解説試論】『何もしない』 –「なにもしない」をするために本当に必要なこと–

    何もしない休日を過ごすと罪悪感を抱いてしまう。なんとなく眺めるSNSには、資格勉強に励んだり、「丁寧な暮らし」を思わせる写真がアップロードされている。そういうのを目にすると、何もしない自分がひどく恥ずかしくなるのだ。日々の生活のなかで「何もしない時間を作るぞ」「今日という一日だけは何もしないぞ」と思っても、その選択がそもそも間違いだったような気がしてくる。だ

  • 小説『オーバーヒート』「不安」と「終わり」の充溢と生

    哲学者・千葉雅也『オーバーヒート』を読んだ。物語は、京都の大学で哲学を教えている「僕」の日々を縦軸とし年下の男性の恋人との関係の揺らぎを横糸とした恋愛小説となっている。この小説の魅力をまず伝えるならば一つは「読んでいて気持ちのいい小説」ということ、そしてもう一つが「明晰であるが故の寂しさが丁寧に描かれている」のが率直な感想だ。 まず前者について。この小説は「

  • 【名言・考察】アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』槙島聖護の言葉

    「友達だから話題を選んでしまう」という言葉を違和感なく受け入れることができるのであれば次の言葉にも共感できるかもしれない。 「もう誰も他人を必要としない。どんな才能もスペアが見つかる。どんな関係でも取り換えがきく。そんな世界に飽きていた」 。 アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』のキャラクター・槙島聖護の言葉だ。 アニメ『PSYCHO-PASS サイ

  • 青春小説の原点にして頂点『ライ麦畑でつかまえて』はなぜ人気か

    人生のある期間でしか読めない本というものがあるとすれば『ライ麦畑で捕まえて』はその一冊になると思う。そして、この「ある期間でしか読めない」というのが『ライ麦畑でつかまえて』を名作たらしめていると私は思う。本論では『ライ麦畑でつかまえて』の人気の秘密を考察していきたいと思う。ただ、先んじて結論をいえば、その秘密は十代のすべての感情が詰まっていることが人気の秘密

  • 【解説試論】 『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』は何を残したか –「顎」と「運命」と「愚かさ」の肯定について–

    ※ネタバレあり 先日『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』をみてきた。アニメ放送から20年ほど経過してからの映画化ということで話題になっている。鑑賞後の印象は「お祭り」と「同窓会」。「あのときの、あの動きが!」「あのキャラが!」というシーンが多く、古参のファンであれば満足できる作品になっている。逆にいえば一見すると単なる「お祭り」という印象しか残りかね

  • 【名言・考察】真賀田 四季の言葉

    人が「考える」のは「答え」を得たいからだ。しかし真賀田四季は別の個所で「完全なる答えなどない」と言う。それにも関わらず、彼女は「問い続けなさい」という。だが「完全なる答えがない」ならば「考える」ことなど無意味だ。 そう思う私たちに「考える」ことの価値を教えてくれる 。このことを少しだけ詳しくみていこう。 さて、改めて紹介すると先の言葉はミステリー作家・森博嗣

  • 【名言・考察】THE BLUE HEARTSの名言

    「生まれた所や皮膚や目の色でいったいこの僕の何がわかるというのだろう」。THE BLUE HEARTS『青空』の歌詞だ。この言葉を本論の読者は古臭いと思うだろうか。確かにこの曲が発表されたのは1989年で今から30年以上前だ。 しかし私自身の考えは、この内容は今でも多くの人に刺さると思っている。そのための視点を本論では提供したい 。 このことについて就職活動

  • 【要約・考察】『実況中継・社会学』

    これから紹介する『実況中継・社会学』という本は冒頭で次のように書いている。「それがいまやテレビで「時事批評」する人たちだれもかれもが自称・他称にかかわらず社会学者と呼ばれ(…)ググってみたところ、経歴的にも議論の構成に関しても社会学とはまったく縁のないかたであることがわかり、びっくりしたことがありました」。このように「社会学者」の乱発があるせいだろうか。一部

  • 【コラム】エッセイから読み解くフリーアナウンサー・住吉美紀の世界

    「共感の女王」と呼ばれているフリーアナウンサーをご存じだろうか。平日の九時から十一時に放送されているTOKYO FM『Blue Ocean』で司会を務めている住吉美紀さんが、その人である。ラジオでは老若男女問わず、多くの人が寄せるメッセージに共感を交えながら番組が進行していく様子から、そのように呼ばれている。丁寧で真摯でありつつもカジュアルな雰囲気の当番組を

  • 【要約・考察】『訂正する力』(著:東浩紀)からの言葉

    自己啓発より穏やかで、哲学書よりも柔らかい。本書はそんな本である。それは人間の曖昧さと情けなさを許してくれるということだ。「ミス」に厳しい現代、この本は 私たちの優柔不断な心のお守りのようなものだ と思った。 ところで、私たちは自分の人生をどう評価できるだろうか。夢を抱いて、そこに向けて火の玉のように突き進む。そのような「完璧」とも「理想的」ともいえる人生を

  • 【要約・考察】東大卒プロゲーマー・ときどの言葉

    プロゲーマー・ときどの著書『東大卒プロゲーマー 論理は結局、情熱にかなわない』のなかに「情熱は、理論を凌駕する」という言葉がある。著書はプロゲーマー・ときどが「プロゲーマー」になるまでの人生を綴ったものだが、先の一言に説得力があるのは 「東大卒」という肩書のためだろうか。いや、そうではない、と私は思う 。 ゲームセンターのなかでの上下関係や浪人時代、大学院入

  • 【要約・考察】新書『〈私〉を取り戻す哲学』著:岩内 章太郎

    SNSが普及した現代において〈私〉というものへのイメージは簡単に操作できる一方で、そのことが「途轍もない疲労感を生んでもいる」と本書は主張しています。それはSNSなどにより「みんなに追いていかれたくない、という漠然とした同調意識に支配されて、自分が何を欲しているのかを深く考えなくなっているから」だと。この結果として「情報に意味を与える〈私〉がいない」言い換え

  • 経済学者・熊沢誠の言葉

    「心理的安全性」「ウィルビーイング」という言葉が経営や職場の環境改善という文脈で登場するようになった。その背景には、 労働環境の悪化や止まらぬ能力開発・自己啓発による働き手の「燃え尽き」などがあることは容易に想像ができる 。このような現状に対する分析、そして本文のサムネイルで紹介した「仕事・なかま関係を大切にすることを労働者の「心の自治」」というようなアイデ

  • 【歌詞解説】音楽『寄り酔い / 和ぬか』

    片思いをしている人にぜひ聞いてほしい一曲。 どんな人でも片思いをしているときは、自分のことを好きになってもらうために少しだけズルいことを考えてしまうものだと思います。そんなズルいことを考えた自分が少し嫌いになったり、あるいは自分が自分じゃないような不思議な感覚を覚えたり。そして、相手の言葉やしぐさにずっと頭を悩ませ「我ながらバカだなあ」なんて急に冷静になった

  • 【歌詞考察】あいみょん『裸の心』分裂する歌詞の結末を考える

    私たちが恋愛の曲に求めるのは、こういう歌詞だったのかもしれない。そんなことを思わせてくれるのがシンガーソングライター・あいみょんの『裸の心』だ。ただし、この曲には ハッピーエンドとバットエンド、どちらにも解釈できる仕掛けが施されている 。本論では、この曲の人気の理由と、バッドエンドとハッピーエンドの2つの結末へ至るための解釈を歌詞に沿って紹介していきたい。

  • 【あらすじ・考察】『僕の心のヤバイやつ』はなぜ「尊い」か

    これほどまでに キャラクターにとっての「嬉しい」に「よくやった!」「頑張ったな!」と励ましたくなるラブコメを私は知らない 。そのラブコメとは現在アニメ二期が放送されている漫画『僕の心のヤバイやつ』(以下『僕ヤバ』)だ。この魅力をぜひ紹介させていただきたい。とはいえ漫然とした「紹介」ではつまらないので、ここでは『僕ヤバ』の作者が丁寧に書くことを意識したという要

  • 【あらすじ・感想】『白光』ミステリー小説の大家が描く人の心の獰猛な闇

    ミステリー小説といえば何をイメージするだろう。謎の建築物、怪しげな住人、驚天動地のトリック。はたまた「読者への挑戦状」? 本論で紹介する連城三紀彦『白光』にはいずれの要素も無いが、それでも傑作ミステリーの一冊だと断言できる。奇天烈ではないが、それでも際立つ非凡さ。 このような表現が、小説で可能だったのか 。そう思わずにはいられない。ここでは『白光』のあらすじ

  • 【要約・考察】『現代社会はどこに向かうか』から「幸せ」を考える。

    アニメ映画『君たちはどう生きるか』がアカデミー賞アニメ映画賞を受賞した。しかし、考えてみると日本を代表する映画監督が現代に放った作品のタイトルが「どう生きるか」というのは意味深な出来事でもある。つい先日、日本のGDPがドイツに抜かれたということも騒ぎになったが、いよいよもって「経済」という明快な「幸せ」の基準が揺らぎ、「幸せ」を再考すべきというサインであり「

  • 【要約・考察】『人間はどこまで家畜か』現代への「疑念」を提示する渾身の一冊

    世界や社会に対する個人の姿勢を分類するのであれば「肯定」「否定」の間に「静観」「懐疑」があると思う。 そして本書は「懐疑」の本である 。本書は「自己家畜化」というキーワードを武器に「ADHD」や「社交不安症」の増加の謎にメスを入れ、その背景にある「生物」としての人間、そして社会構造の変化を分析する。もし今、本論の読者が「健康志向」の風潮や「コスパの良い人生」

  • 【解説試論】『葬送のフリーレン』は何を描くか –ネガティブ・ケイパビリティの物語について–

    アニメ『葬送のフリーレン』が人気アニメだということに異論がある人は少ないと思う。タイトルにある「フリーレン」というのは舞台となっている世界の魔王を倒したパーティーのメンバーの名前だ。女性の魔法使いのフリーレンは人間より寿命が長いエルフという種類のキャラクターで、当然のことながら他のパーティーよりも長生きすることになる。魔王討伐後の平和な世界で魔法集めをしてい

  • 【あらすじ・考察】『かぐや様は告らせたい』世界で一番「愚直」な恋

    「頭悪くなる位人を好きになれるのは幸せな事だよ」という名セリフ・名シーンがあるのは漫画家・赤坂アカによるラブコメ漫画『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』である。ここでは本作の簡単なあらすじと、これがなぜ実写映画化、アニメ三期とテレビスペシャル版まで至るほどヒットになったのかを考察していきたい。 舞台は名門とされる高校・秀知院学園。そこの生徒会長で

  • 【要約・考察】『世界は経営でできている』人生の経営者になるための必読本

    告白すれば「経営学」について私は良いイメージがなかった。冷徹な合理主義、搾取のノウハウの蓄積という印象が先行しているからだ。しかし本書は違う。「本来の経営は失われ、その代わりに、他者を出し抜き、だまし、利用し、搾取する、刹那的で、利己主義の、俗悪な何かが世に蔓延っている」と宣言する。この本が語る「経営」とは他者と自分を同時に幸せにするという「価値創造」だ。し

  • 【名言・考察】宮沢賢治『永訣の朝』の一文

    宮沢賢治の名前を知らない人はいないだろう。大正から昭和の初めに活躍した童話作家で、その作品は国語の教科書にも載っている。とりわけ「雨ニモマケズ」は誰もが一度は目にしたことがあると思う。一方賢治は作家以外にも「世直し」に奔走し貧しい農民の手助けもしていた。だがこのような取り組みは、彼の最愛の妹・トシの死後のことだ。 「ありがとう、私のけなげな妹よ 私も真っすぐ

  • 【名言・考察】『池袋ウエストゲートパーク』キングの名言

    2000年に放送されたドラマ『池袋ウエストゲートパーク』は今でも面白い。紹介したのは、そのドラマで登場する窪塚洋介が演じる「キング」という役のセリフだ。『池袋ウエストゲートパーク』は、主人公・マコトが池袋で発生する事件を解決するために奔走するというものだが、 ただの単なるミステリーではない 。カラーギャングや若者文化を存分に盛り込んだスピード感あふれる展開と

  • 【名言・考察】『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』の名言

    「これからは~の時代」という文言を見かける回数は多くなったと思う。要するに「社会は変わる/を変えたい」という欲望の表れだ。でも大人たちは「現実」というやつから「変われないこと」を教わりすぎた。この「僕は僕だけがたまたま知りえた情報の確認と伝播を自身の使命と錯覚し、奔走した」というセリフはどうだろうか。 「錯覚し、奔走した」という部分に大人になってしまったこと

  • 【コラム】ド文系が結城浩の『数学ガール』を読んでみた

    「数学が出来たらカッコイイな」と思ったことはないだろうか。そんな衝動を持ったまま手に取ったのが結城浩の『数学ガール』という本だ。とはいえ、タイトルのとおりド文系である自分がきちんと読めるかは自信がなかったし、読了した今でも十全に理解できるとは思っていない。ただ、それでも、楽しい読書体験だったということは、ぜひ共有したいのだ。これこそが本文の結論だけれど、 そ

  • 【要約・感想】『非モテの品格』男らしさの呪縛を解く優しさが宿る魂の一冊

    言葉にならない不安や絶望、それらを誰かに伝えるため、人文の世界は存在する。杉田俊介『非モテの品格』という本は、そんな試みの本だと思う。本書は三章で構成されており、一章は男にとっての「弱さ」という問題提起を行う。第二章は男にとっての「弱さ」という角度から恋愛や性愛の問題に取り掛かる。そこでは、この問題を「個人の運不運や自助努力の問題としてのみ考えずに、社会や制

  • 【要約・感想】『メンタル脳』「やりすぎ」な脳との幸福な付き合い方

    不安という感情や記憶、あるいはそもそも心というものが、なんのために存在するのか。そんな考えたことないような疑問に「脳」の仕組みという視点から答え、 それを踏まえた上で良質なライフハックを私たちに提供してくれるのがアンデシュ・ハンセン『メンタル脳』だ 。十代向けに書かれたという本書の構成は実にシンプルであり、内容としても二十代、三十代、あるいはそれ以上の年代に

  • 【歌詞考察】『月曜日』(amazarashi)憂鬱な月曜日を生き延びたい僕らのための歌

    月曜日が憂鬱なのは、僕らが「大人」だからかもしれない。 そんな月曜日を生き延びるにはamazarashiの『月曜日』という歌が効く 。学校にも会社にも行きたくない月曜日のために、この曲の魅力を歌詞に沿って紹介したい。 「体育倉庫のカビたウレタンの匂い」から始まる本曲は、リスナーを学生だった頃に引き戻す。ここでは匂いを感じている学生を仮に「私」としよう。「私」

  • 【感想・考察】『キドナプキディング』戯言シリーズ最新作!新青春エンタの頂点の果て!

    著者の手元にある本書の帯文には「首を洗って待ってたかい?」とある。一人のファンとしてこう答えたい。「首を長くして待ってたよ」。西尾維新のデビュー作『クビキリサイクル』から始まる「戯言シリーズ」のその後を描くシリーズ最新作『キドナプキディング』。その紹介と考察を本論では行う。『キドナプキディング』の主人公は「戯言シリーズ」の主人公・戯言遣いこと「いーちゃん」と

  • 【要約・考察】『現代思想入門』人生のリアリティを味わう哲学

    優れた入門書は、優れた地図でもある 。千葉雅也の『現代思想入門』はそのような優れた地図になる一冊だ。しかし、この地図には謎がある。この地図は一体、どういう目的で書かれたのか。仮に「現代思想を知りたいから」という読者側の答えが明白だとしても、「入門書」というジャンル自体が膨大な数であることから、この本の意義は単なる「入門」以外にもある気がしてならない。素朴に考

  • 【要約・考察】『リバーズ・エッヂ』を「教訓」として読む

    振り返ってみれば、この時期から、人々の価値観とか社会の仕組みとかが少しずつ狂い始めていったのかもしれない。岡崎京子の漫画『リバーズ・エッジ』はそんなことを思わせてくれる。主人公の女子高生・若草ハルナが元彼氏の観音崎にいじめられている山田を助けたことをきっかけに、河原に放置された死体を偶然見つけ、その秘密を共有するというのが物語の大枠だ。 94年に刊行された本

  • 【【あらすじ・感想】『あすは起業日!』起業への熱き疾走!傑作ビジネス小説!

    とても面白かった。一冊の本を読み終わって純粋にそう思ったのは久しぶりだ。『あすは起業日!』は著者・森本萌乃の実体験をベースにしている「起業」小説である。そんな本書のあらすじは次のとおりだ。 主人公の加藤スミレは、ある日突然会社をクビになってしまう。特別なスキルも、仕事への情熱もなかった彼女は次の就職先について悩むが、あることをきっかけに、副業で行っていた選書

  • 【要約・考察】『宮本常一 歴史は庶民がつくる』「庶民」の発見と警告の一冊

    「進歩とは何か、発展とは何か、進歩という名のものと、私たちはじつにたくさんのものを切り捨ててきた」。『宮本常一 歴史は庶民がつくる』にはそんな一文がある。本書は民俗学者・宮本常一の思想を、時代背景や彼の仕事からたどっていく本だ。宮本は、戦後まもなくの「村」や「集落」を渡り歩き、そこに生きる人々の文化や生活などの「生の声」を生活史として収集、編纂していた民俗学

  • 【オススメ本の紹介】「自分らしさ」で悩む君が読むべき3冊

    様々な場面で「自分らしさ」が問われる時代だ。もしこれを学生が読んでいるのであれば、色々と思い当たる節があると思う。進路や将来の夢は言うまでもないし、SNSで輝かしい道を歩んでいる同世代の姿を見ては「自分に何ができるだろう」と焦燥感に駆られている人も少なくないのではないだろうか。 残念なことに、この悩みは大人になっても尽きることはない。「働き方」さえ、その気に